さて、そんな事はどうでもいい。出発である。飛行機の離陸時間に比べると相当早い時間に家を出る。このまま行くと空港で二時間近く待つはめになる、と思った私は漫画喫茶で一時間、時間をつぶす。
そして京成線で成田へ。駅に出発時刻の一時間前に着く。理想的な時間だ、と自分では思っていた。
航空券を受け取りにカウンターをさがす。ＡからＨまで分かれている。私のはＨ。そこに行き、電光掲示板を眺めながら歩いていると、アナウンスが。
ユナイテッド航空で、ソウルへ、お行きの、田中、英二様、
＊＊番カウンターまで、至急、お越しください
『だあぁあぁぁぁあぁあぁ！！！！！！』
このアナウンスの声は文字では表わせない。一対一で言われているのではない。空港内、すくなくともかなり大勢の人間がいるチケットカウンターフロア全体に響く、厳かな声で、ゆっくりと、言われるのである。ここまではずかしくこそばゆいものだと誰が想像しただろうか。
早歩きでそのカウンターへ付いた頃、私の手は冷や汗で濡れていた。
カウンターの係員。やっと来たか、という顔。もしかしたら相当回数呼び出しをくらっていたかもしれない。チケットを受け取り少々安心した私に追い討ちをかける係員。
「今日は予定が変更になりまして、＊＊からバスに乗って飛行機まで行くことになります。バスの時間まであまりないのでお急ぎ下さい」
”間に合わないだろうけど、一応行ってみてね”という感じの目。冗談ではない。電車と違って一本後のに乗ればいいという訳ではない。先ほど以上の冷や汗が出てくる。
今までの経験で、遅れている乗客はある程度待ってくれて、さらに迷っていると思われる場所まで探しに来てくれる事は知っていた（待っているとスチュワーデスが声をあげながら人を探して歩いているのを見ることが出来る）が、まさか自分がそんな目にあうとは思ってもいなかった。
そして自分がそうなると今度はそういう人が本当に来てくれるのか心配になってくる。ＪＡＬやＪＡＳならいざしらず、ユナイテッドである。アメリカ資本（のはず）→きっと乗客に冷たいに違いない→遅れた客など気にしないかもしれない→乗り遅れる？ という恐怖の妄想まで浮かんでくる。
結局は私の妄想で、無事に乗り込む事が出来たのだが、飛行機に乗ってから離陸までの時間は短かった気がする。出国手続きその他を考えると出発時刻の二時間前が集合時間というのは妥当だ、と認識した私だった。漫画喫茶など行っている場合ではなかったのだ。